デザイン担当
倉持 直基
楽器のデザインをトータルに手掛ける。
![デザイン担当 倉持 直基](img/interview/img_interview04.jpg)
![デザイン担当 倉持 直基](img/interview/sp/img_interview04.jpg)
企画から始まるデザインの仕事
私が初めてデザインを手掛けたのはPrivia誕生から約3年後、PX-200というモデルを開発した時でした。当時「樹脂製の筐体を使いながら、いかにしてピアノらしさを出して行くか」というのがデジタルピアノの一番の課題だったのですが、これをクリアするひとつの手段として、コンソールの木目表現に“水転写”という技術を用いたのを覚えています。それは、光沢のある高い質感を狙った初めての試みでした。技術的にいろいろと苦労した点もあったのですが、結果としていいトライができたのではないかと思っています。それ以来、約7年に渡ってPriviaのデザインを担当していますが、実は私たちの仕事はデザインといっても単に外観を形作るだけではありません。商品を開発し世に送り出す時には、それにかかわるすべてのセクションが、その商品のコンセプトをきちんと共有できていなければなりません。ですから、企画の初期の段階で、今カシオの楽器はどうあるべきなのか、その中で今回開発される商品は何を目指すべきなのか、といったポイントから、関係各部門と意見をしっかり交換するように心がけています。
![Priviaらしさの追求](img/interview/img_interview04-01.jpg)
![Priviaらしさの追求](img/interview/img_interview04-01.jpg)
Priviaらしさの追求
ユーザーの皆様から求められているPriviaのデザイン、Priviaらしさというものの大きなポイントに“先進性”があると私は考えています。例えば木工タイプのモデルでは、本来のピアノらしさというものを意識しながらも、奥行きを抑え、スリムでスタイリッシュな独自のフォルムを実現して、インテリアとの協調を図っています。しかし、逆に部屋の中へ溶け込みすぎてしまっても今度は物足りなくなりますので、そこは“協調”と“主張”、相反するような2つのバランスを上手に取るように心がけていますね。そのために、同じ色でも木目やエンボスなどで質感を高めるなどさまざまな工夫を凝らしています。また、PX-150や350Mのようにテーブル上で弾けるタイプのモデルも、ラインのダイナミックさ、曲線の取り入れ方などでPriviaらしい個性を出すように気を配っています。もちろん、スタンドを取り付けた際のフォルムにもスタイリッシュで洗練された表情を充分に出せるように、全体のプロポーションを計算しています。
新しい価値に見て、触れて、感じてほしい
このようなデザインを実現するため、いつも心がけていることのひとつに、なるべく早い段階で実物大のモックアップ(模型)を作るということがあります。プロジェクトに関わる全員が、早いうちに同じゴールをイメージできるようにするためです。やはり、モノが見えるようになって初めて出てくる意見や想いも沢山ありますから。そこから、当初のコンセプトからずれないように各セクションの声を整理しつつ作業を進めて行くわけですが、ここは特に、デザインの仕事におけるコミュニケーションの大切さを実感する部分ですね。
私は、Priviaのデザインを通してユーザーの皆様に新しい価値を提供していくことを使命のように感じています。Priviaは、そういう観点からも常に果敢なチャレンジを続けて行ける商品です。コンパクトでスリムな中に息づく“先進性”を、ぜひ、多くの方々に直接見て、触れて、感じていただけたらと思っています。
想いを具現化できたモデルたち
これまで7年間、Priviaのデザインに携わってきましたが、その中でも特に思い出に残っているモデルが2つあります。ひとつは、Priviaの中でも商品コンセプトをとりわけ明確に表現できているPX-130です。テーブル上でも演奏できるコンパクトなモデルなのですが、スピーカーを背面に向けたり、左右幅ほぼ一杯に大きな曲線を取り入れるなどさまざまなアイデアを積極的に用いて、機械的なイメージを大きく抑えることに成功しました。中でもPriviaとしては初めて「赤」を大胆に取り入れた限定モデルPX-130RDが、ユーザーの皆様から多くの評価をいただいたのは嬉しい思い出です。
そしてもうひとつ、社内でのデザイン提案がきっかけとなって商品化が実現した珍しいモデルがあります。それは、鍵盤カバーを閉じた時に天面がフルフラットの状態になる、スタイリッシュという言葉がぴったりなPX-830BPです。このモデルでは、通常なら設計部門が担当するエリアまで私たちデザインのメンバーが手掛けることで、洗練されたミニマルな表現を徹底的に追求しました。そのために、CADルームへ1週間こもりっきりになり画像やデータと必死に格闘していたのを思い出します。
![デザインは終わりのない挑戦](img/interview/img_interview04-02.jpg)
![デザインは終わりのない挑戦](img/interview/img_interview04-02.jpg)
デザインは終わりのない挑戦
Privia誕生10周年を迎えた2013年は、また新たなチャレンジとも言える個性的なPX-A100とPX-A800の2モデルが発売されました。PX-A100の大きな特徴である2つのカラー「赤」と「青」については、まず営業から方向性の提案がありました。そこから、ピアノにふさわしい落ち着きや先進性などを総合的に判断し、最終的にどちらも深みのある色合いとなったのですが、狙い通りの雰囲気、楽器らしい佇まいのようなものは表せたと思っています。また、これまでお話ししてきた「Priviaらしさ」というものと少し異なるのですが、このモデルではあえてストレートラインを多用することで、デザインに機器的なエッセンスを微妙に加えています。これは、カシオが昨年XWシリーズというシンセサイザーを約25年ぶりに発売したことも受けてのことです。今この時点でのカシオらしさ、カシオ楽器のあり方をあらためて見つめ直した時に、この新しいチャレンジに行き着きました。またPX-A800というナチュラルな木目デザインの木工タイプも思い切ったチャレンジでしたが、多くのユーザーに受け入れていただけてとても嬉しく思っています。
いずれにしましても、デザインというのはその時その時代のベストを目指しているわけですから、また新しいモデルでは、カシオ楽器のアイデンティティのもとで表現を再構築してゆく。デザインは、終わりなき挑戦のように思えます。ユーザーの方も、カシオにはユニークでオリジナリティのある楽器を求められていると思うので、これからもその想いを裏切ることのないように、このチャレンジを続けて行きたいと考えています。